【このマンガがワールドクラス】ハッピーエンドではじめよう

ハッピーエンドではじめよう

「死んだ人間がネコとして生き返り、一週間だけ生活できるとしたら…?」という設定の短編集です。腰帯に「泣けるコミックス」などと書いてあり、あざとさを感じる人もあるかもしれませんが、安っぽい物語はひとつもありません。

悲しさや惨めさや苦しさをダシに読者を泣かせるような、そんなベタなお話は含まれていませんのでご安心ください。仮にあなたが涙を流すことがあるにせよ、不思議なことにそれは喜びから流す涙でしょう。

さて、全編に適用される奇妙な物語の設定は、「生きるって何?」という直球テーマを、作者が鮮やかに描き出すための装置だと思われます。うっかり忘れがちですが、自分も含めて人は死にます。

そんな基本的なことを忘れてしまいがちなのは、日々のあれこれに気をとられ、どうでもいいことに夢中になってしまうからでした。けれども物語は、「死んじゃった!」という身もフタもない地点からスタートします。そして与えられる時間は一週間。もはや些事に構っているヒマなどありません。

こうして物語は一気に主人公たちの半生を暴き立てます。ごらんのように筆致こそ穏やかですが、その圧倒的な迫力は失禁モノです。一切の虚飾を剥ぎ取られ、丸裸にされた自分の姿に、主人公たちは驚き、戸惑い、考えます。

しかし作者は慈悲深い。主人公それぞれに、いくつものアスペクトでもって、救いの手をさしのべるのでした。それも、彼らそれぞれの可能性をすくいとった上で。

キャリア20年超の作者ならではの、残酷にして美しい物語群。ただただ感服するばかりです。もうホント、ベラボウに漫画がウマいです。

 

 

 

書籍情報

『ハッピーエンドではじめよう』 本山理咲 (芳文社) 2010
 
 
 

「このマンガがワールドクラス」について

「このマンガがワールドクラス」シリーズでは、世界で通用する一級品のマンガを、独断的に紹介するものです。ここで紹介するマンガが、すでに翻訳作業に入っているものであれば余計なお世話ですが、もしまだであれば今すぐ海外出版を検討すべきです。

なお、日本のマンガが輸出されるようになって久しいですが、いまだに海外では「マンガは子ども向けの娯楽」という偏見を拭いきれていません。しかしこれには輸出する側にも問題があり、主に「子ども向けのマンガ」を積極的に海外展開してきた過去があります。その辺の現状を改善する一助にもなればなあ、と思っています。いやはや、実に僭越です。


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