シド・フィールドの脚本術に見る骨太なストーリーテリングの技法

シド・フィールドの『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』は、極めて明確にロジカルに脚本の何たるかを記した素晴らしい一冊です。ハリウッド映画はただ単に資金力にモノを言わせて作っているだけではなく、すでに1979年にこの次元の理論を獲得していたのかと(そしてどうして日本はこの本の翻訳を30年も怠ってきたのかと)、驚くことになるでしょう。

シド・フィールドの映画理念は、「映画はアクションによって語られ、アクションが人物像を形作り、そのキャラクターが欲することがドラマ構成を決める」というものであり、映画脚本とは「映像によって、ストーリーを語る会話とト書きが、劇的な構造を持つ文脈の中に配置されたもの」と一貫しています。

では、キャラクターをどのように形作り、そこからどんなストーリーへと発展させていくのか、実際のセッションを見ていきましょう。

「キャラクターをつくろう」私はクラス全員に言った。「いくつか質問し、それに答えてもらう」
みんなは、笑いながら頷いた。
「では、どこから始めようか?」
「ボストン」教室の奥の方から男性の声が響いた。
「ボストン?」
「そうさ、彼はボストン出身なんだ」
「いや、彼ではなくて彼女よ」と、何人かの女性陣が言った。
「よし、それでいこう」と私は言い、それでよいかどうか尋ねた。みんなそれに賛成だった。
「では、私たちの題材はボストン出身の女性だ。これが出発点だ」
…………

主人公の基礎的な設定を終えると、次に家庭環境の設定に入ります。

こうして、サラ・タウンゼントが出発点になった。彼女は、二十代後半から、三十代前半で、ボストン出身である。サラ・タウンゼントが私たちの主人公である。
次にサラ・タウンゼントの中味を作っていく。
(中略)
「(※サラ・タウンゼントの)父親の名前は?」
ライオネル・タウンゼント。
どんな物語背景を持っているのだろうか?
いろいろなアイデアが出された。そして最後には次のようになった。ライオネル・タウンゼントは、ボストンの上流階級に属している。つまり、裕福で、洗練されていて、保守的である。ボストン大学の医学部に入学し、インターンとしてセントルイスのワシントン大学で働いていた。
では、サラの母親はどうだろうか? 結婚する前には、なにをしていたのだろうか?
「教師で、名前はエリザベスだ」生徒の誰かが言った。いいだろう。エリザベスは、セントルイスで教師として働いていて、そこでライオネルに出会ったのだ。その後、ライオネルが医学部を卒業し、医師免許を取るまで、小学校で教えていた。ライオネルがボストンに戻る時にはエリザベスは妊娠しており、教師を辞めた。
「サラの両親が結婚するのは、いつだろうか?」私は言った。
サラは二十代後半から三十代前半であるので、両親は一九七〇年代初め、ベトナム戦争中か、それが終わったくらいの時期に結婚していなければならないことになる。
…………

家庭環境が明らかになったところで、主人公の進路を高校、大学、就職活動の順に追います。主人公サラ・タウンゼントは、高校卒業後、ニューヨーク州のヴァッサー・カレッジに進学し、政治学を専攻します。カレッジ卒業後はニューヨークに出て職を探すことになります。

一九七二年(※セッションの途中で時代設定が変更された)。ニューヨーク。世の中ではどんなことが起きていて、サラにどんな影響を与えたのだろうか?
この時代についてリサーチしなければならない。
当時の大統領は、ニクソンだった。ベトナム戦争はいまだに終わる気配を見せていない。戦争にって、国民全体が神経をすり減らし、疲れ切っていた。ニクソンが訪中した。マクガヴァン上院議員が大統領選挙において人気を集めていて、「彼が次期大統領かもしれない」という希望が生まれていた。ジョージ・ウォレスが、ショッピングセンターで銃撃された。『ゴッドファーザー』が封切られ、『チャイナタウン』が撮影中であった。
(中略)
一九七二年。ニューヨーク。大統領選挙の年である。ニクソンとマクガヴァンの対立である。サラ・タウンゼントはマクガヴァンの選挙事務所で、給料を得ながらスタッフとして働いている。サラの両親はどちらに投票するのだろうか? サラは、選挙事務所で働いた経験から、政治についてどんなことを学んだのだろうか?
(中略)
何か、政治問題に発展することが起きたのだとしたらどうだろうか? サラの友人、それも親しい友人が、懲役を拒否して、カナダへ亡命したのである。こうしてサラは、懲役拒否者を帰国させる運動に巻き込まれる。
…………

やがて主人公サラは弁護士を目指すことになります。ちなみに、彼女が弁護士になってからがドラマの前提となっていて、驚くべきことにこの時点ではまだそのドラマの前提にすら辿りついていません。

そしてひとりの生徒が叫ぶようにして言った。「ウォーターゲート事件だ!」もちろんだ! 一九七二年の六月のことである。これこそ、サラに影響を与える劇的な出来事ではないか?
その通りである。サラは、激しく憤っただろう。この事件はサラの中に劇的な反応を生み出し、大きくするだろう。これこそ、私たちのまだ形にはなっていないストーリーに観客を引きつける事件である。創造の過程であるので、混乱や矛盾などは想定内なのである。
二年半後には、ニクソンは退陣し、ベトナム戦争は終結に向かっている。恩赦の問題が最重要課題になっている。政治問題に関心をもっているので、サラは恩赦問題を身近で見ることができ、そのことからドラマの解決を作ることができる。サラは、政治的問題によってアクションを起こす、という人物なのだ。これでうまくドラマが作れるだろうか? 大丈夫。
サラがロースクールに通い、弁護士になるには十分な動機付けができただろうか?
…………

次に、弁護士になった主人公サラに起こる出来事、ストーリーを進める何らかの出来事を探り、それが第一幕の物語として設定されます。

生徒のひとりが、原子力発電所に関するニュースを見た、という話をした。
それでいこう!
それこそ、興味を引くものとして探していたものだ。サラは、原子力発電所の安全問題に関わるのである。これこそ、まさに時事問題であり、観客の興味を引くストーリーの基軸になるものである。サラが弁護士であることが、それを可能にする。
みんなも同意した。サラに関係する外面要素を広げていくと同時に、ストーリーをドラマ上の流れのなかに組み入れていこう。サラ・タウンゼントが、原子力発電所の安全基準の見直し運動に関係していくというのが、ドラマ上の前提である。サラは調査の過程で、ある原子力発電所が安全ではないという事実を発見するのである。ある政治家が、安全ではないのにも関わらず、その建設を推進したのだ。
このことが、ドラマの前提である。
次には、詳細部分、ストーリーの中身を作っていかなければならない。脚本の主題(テーマ)を設定するのである。アクション(行動)とキャラクターである。
(中略)
このガイドラインは、厳密に実際の状況に準じたものではなく、政治的必要性によるものであった。これこそ、サラが偶然発見した事実である。原子力発電所での安全基準を下回る状態での労働強制に、直接、政治化の関与があったのだ。ここで、ストーリーを引っ張る出来事が、なにか実際に起きなければならない。
原子力発電所で働くある人が放射能汚染にかかり、その事件がサラの働く事務所に持ち込まれるというのはどうだろうか?
とてもいいアイデアだ。これこそ、探し求めていたドラマ性をもつストーリーラインだ。職員が放射能汚染され、その事件がサラの働く事務所に持ち込まれる。サラが担当することになる。
サラが、その職員の汚染原因が、発電所での安全基準が守られていないことに起因するということを発見するまでが、第一幕の最後、プロットポイントIになる。
…………

つづいて第二幕、およびプロットポイントIIの設定に入ります。

ストーリーの流れの中で、サラが困難につぐ困難に直面するのが第二幕である。あまりにも障害が多いので、サラは政治的陰謀があるのではないか疑いを持つ。もはや無視できない。サラが信頼を置き、話を打ち明ける人物が必要になってきた。サラは、別居するか離婚している子持ちの弁護士と付き合うようになる。彼らの関係は緊張する。相手の男はサラが狂っているとか、ある種の偏執狂になったのではないかと思う。そのようなプレッシャーの下、彼らは関係を続けていくことが難しいと思い始める。
(中略)
自分の事務所内でも、反発と対立を経験する。サラは、もし調査を強引に続けるのならば、事件から外すと言われるかもしれない。両親は、サラに賛成してくれない。ここでも葛藤がある。サラをサポートしてくれるのは、発電所で働く人だけである。彼らはサラが事件に勝つようにと応援し、安全基準の問題性について打ち明けてくれる。メディアを使うこともできる。サラが調査を続けるべきだと考えるリポーターを作ってもよいだろう。彼は、特ダネを掴もうとするのだ。そこで、サラとリポーターとの間にロマンスが芽生えてもよい。
プロットポイントIIはどうだろうか? 何かしらの事件、事故でなければならない。この出来事によって、新しいアクションを起こさせ、ストーリーを別の方向性へ向かわさなければいけない。
リポーターが、この事件には多くの官僚をも巻き込んだ政治的背景があるという証拠を、サラの元へ持ち込んできた。こうしてサラは、事実を掴んだのである。
それをサラはどうするだろうか?
…………

そして第三幕(エンディング)へ道筋が示されます。

第三幕は解決についてである。サラは発電所の職員とメディアの助けを借りて、原子力発電の安全基準の規範における政治汚職を明らかにする。
発電所は、新しい安全基準が作られるまで、閉鎖されることになった。サラの粘り強く、勇気ある行動に賞賛が贈られる。

最後にこれまでのセッションを振り返ると…。

興味が引かれる主要キャラクター、サラ・タウンゼントと、原子力発電所に関わる政治的スキャンダルを暴くというアクションを作ることができた。ストーリーを支える四つのポイントも作った。サラが政治汚職を暴くというエンディング、原子力発電所職員が放射能汚染されるという、始まりを作った。プロットポイントIは、発電所内の安全性に問題があることが明らかになることであり、それによって第二幕の葛藤が生まれた。第二幕の終わりでのプロップポイントは、サラが発電所の安全基準問題と政治的なつながりを見つけることである。
あなたはこれに同意しないかもしれないし、好きではないかもしれない。この練習の目的は、登場人物のキャラクターをつくることで、ストーリーを動かす、ドラマ上のアクションが生まれるのかということを、形として見せることである。
(中略)
この章の最初に書いたように、脚本を書くには二つの方法がある。一つはアイデアを考えだして、その後にキャラクターを作り、キャラクターをアクションの中に放り込む。二つ目の方法は、キャラクターを作って、アクションとストーリーをそのキャラクターから生み出す方法である。この二つ目の方法がこの章でやってきたことである。

一部を抜粋しての紹介のため、この章で実際に行われているセッションにおいての掘り下げ、いくつかのストーリーの可能性などに触れておらず、あまり熱気が伝えられなかったかもしれませんが、展開の推進力には目を見張るものがあります。気になる向きは、手にとってみるといいです。日本の映画やドラマ、漫画などでは、おそらく使われていない手法です。仮に使われていたとしても、ここまで徹底はしていないでしょう。とりわけキャラクター背景の作り込みには、目を見張るものがあります(上記抜粋でも、人物設定とストーリー展開の比率が、だいぶ偏っているのが見えると思います)。

なお、『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』では、ロジカルに断言しまくるジム・フィールドの勇姿を楽しむこともできます。

  • 脚本とは「映像によって、ストーリーを語る会話とト書きが、劇的な構造を持つ文脈の中に配置されたもの」である
  • 脚本は「共通して“発端”“中盤”“結末”の三つの部分」を持つ
  • 「脚本の一ページはスクリーン上では一分」になり、よって標準的な長さの映画では128ページ程度である。
  • 「第一幕(発端)は、20から30ページの長さ」であり、「最初の10ページが脚本上最も重要な部分」である。
  • 「キャラクターが欲することがドラマ構成を決める」
  • 「アクションが人物像を形作る」
  • 「映画はアクションによって語られる」
  • 「登場人物はアクションを起こさなければいけないのであって、受動的にリアクションばかりしていてはいけない」
  • 「“ドラマ上の欲求”とは、脚本の中で、その人物が手に入れたい、成し遂げたいと思っていることである」
  • 「強力なオープニングを書こうと思うのなら、エンディングを分かっていなければならない」
  • プロットポイントとは「ストーリーのアクションを加速させ、別の方向へと行き先を買えるような事件、エピソード、出来事のことである」
  • 「ショットとは、アクションの最小単位、つぼみである。基本的にショットとは、カメラが見るそのものである」
  • 「シーンはショットからなる。一ショットと複数ショットの場合がある」
  • 「ショットのねらいを決めてしまえば、ショットやシーン内で展開されるアクションを書いていけばよい」
  • シーンには二つの種類があり、「一つは、視覚的に何かが起こるシーン」であり、「もう一つは、会話シーンである」
  • 「シークエンスとは、一つの共通な目的に向かってゆく、“発端”“中盤”“結末”という明確な形を持ったシーンの集合体である」
  • 「シークエンスこそ脚本の骨格もしくは背骨であり、すべてを一つにまとめる“構造”そのものである」
  • 「ファイナルドラフトは今あるなかでは最高のソフトだ」

また、以下の点は脚本を書いている人には参考になるかもしれません。

自分の脚本のコピーを封筒に入れ、自分宛に書留などの記録が残る方法で郵送する。受領書を受け取っておく。投函の日付がはっきりとわかることを確認する。これによって、自分が書いたということの証拠になるので、裁判沙汰や訴訟沙汰になったときに有効である。
(中略)
その訴訟は、友人に有利な形の和解で収まった。友人が、自分がそのような脚本を書いたということを、証明できたからである。友人は、アメリカ脚本家協会WGAに、自分の脚本を登録していたのだ。そして、その脚本が、その製作会社に送付され却下されたことを証明する手紙も保管していたのだ。

ちなみに。本文中で紹介されていた直接、間接のシド・フィールド門下生(一部)は以下の通りです。


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